課題10:BG/NBDによる顧客ベース分析とCLV試算

計量経済学II

作者

Kei Ikegami

重要この課題のねらい

第10回でやったBG/NBDモデル(購買頻度・離脱・顧客価値の推定)を、講義ノートとは別のパラメータ設定で最初から最後まで通す。

  • Part 1:ネットスーパーの顧客ベース(N=2,000、calibration 52週+holdout 26週)を自作する(30点)。
  • Part 2:自作対数尤度でのMLE、P(alive)、holdout検証、CLV試算、そして「このリストで何をしてはいけないか」という解釈問題(70点)。

配点は合計100点。手を動かせば2〜4時間で終わる分量。ヒントcalloutを随所に置くので、困ったら参照すること。

この課題は講義ノート(lecture10.qmd)と同じ構造だが、真のパラメータ値と文脈は変えてある。ノートのコードをコピペするだけでは正しい答えにならないので、自分で理解して埋めること。


Part 1:ネットスーパーの顧客ベースを自作する(30点)

舞台設定

あるネットスーパーの顧客N=2,000人について、52週間のcalibration期間と、その後26週間のholdout期間の購買履歴をシミュレーションする。

モデル(条件付き分布の束)はBG/NBDそのものである。

  • 顧客が生きている間、購買はPoisson過程に従う:週あたり購買率 \(\lambda_i \sim \text{Gamma}(r, \alpha)\) で異質。
  • 各購買の直後、確率 \(p_i\) でこの顧客は離脱する:\(p_i \sim \text{Beta}(a, b)\) で異質。

真のパラメータ(あなたはこれを後で推定で回収する):

記号 意味
\(r\) 購買率Gammaの形状パラメータ 0.9
\(\alpha\) 購買率Gammaのrateパラメータ(scaleではない) 7.0
\(a\) 離脱確率Betaの形状パラメータ1 0.9
\(b\) 離脱確率Betaの形状パラメータ2 3.2
ヒントヒント:パラメータのスケール感覚

\(E[\lambda] = r/\alpha\)\(E[p] = a/(a+b)\) は、このパラメータ化のもとでの正確な平均である。ここで\(\alpha\)rateなので、Rではrgamma(..., rate = alpha)と書く。上の値から週あたり平均購買率と平均離脱確率を計算し、DGPのスケールを検算してから先へ進もう。

問1(10点):購買イベントをシミュレーションする

以下の骨格を埋めて、N=2,000人・観測期間78週(calibration 52週 + holdout 26週)の購買イベント履歴を生成せよ。各顧客について、rgamma()\(\lambda_i\)を、rbeta()\(p_i\)を引き、Poisson過程+幾何離脱で購買イベントの時刻列を生成する関数を完成させること。

N <- 2000
T_cal <- 52
T_holdout <- 26
T_total <- T_cal + T_holdout

r_true <- 0.9; alpha_true <- 7.0; a_true <- 0.9; b_true <- 3.2

lambda_true <- ______   # 【穴埋め】rgamma()でN人分の週次購買率を引く
p_true      <- ______   # 【穴埋め】rbeta()でN人分の離脱確率を引く

simulate_full_history <- function(lambda, p_drop, T) {
  t <- 0
  events <- c()
  repeat {
    wait <- ______              # 【穴埋め】次の購買までの待ち時間(指数分布)
    t_next <- t + wait
    if (t_next > T) break
    t <- t_next
    events <- c(events, t)
    if (______) break           # 【穴埋め】確率p_dropで離脱(runif()を使う)
  }
  events
}

all_events <- vector("list", N)
for (i in 1:N) {
  all_events[[i]] <- simulate_full_history(lambda_true[i], p_true[i], T_total)
}
ヒントヒント:待ち時間の分布

\(\lambda\)のPoisson過程では、次のイベントまでの待ち時間は指数分布 \(\text{Exp}(\lambda)\) に従う。Rではrexp(1, rate = lambda)で1つ引ける。

問2(10点):calibration期間のRFM要約統計量を作る

観測期間全体のイベント履歴all_eventsから、calibration期間(52週)だけを見た購買回数 \(x\) と最終購買時点 \(t_x\) を計算せよ(holdout期間の情報を使ってはいけない)。

x_cal  <- sapply(all_events, function(ev) ______)      # 【穴埋め】52週以内のイベント数
tx_cal <- sapply(all_events, function(ev) {
  ev_cal <- ev[ev <= T_cal]
  if (length(ev_cal) == 0) 0 else ______                # 【穴埋め】52週以内の最終購買時点
})

問3(10点):可視化と記述統計

次の2つの図を作成せよ。

  1. 20人分程度をサンプリングした「購買タイムライン図」(横軸=週、点=購買イベント、講義ノートのRシミュ1と同じ形式)。
  2. 全顧客の \((t_x, x)\) 散布図(講義ノートと同じ形式)。

加えて、次の記述統計を出力せよ:\(x=0\)の顧客の割合、\(x\)の平均・最大値、calibration期間の総購買回数。

# ---- ここに(a)(b)の図と記述統計を書く ----
ノートこの課題での記述統計の意味

\(x=0\)の顧客が何%いるかを確認しておくことは重要である。この割合が極端に高い(例えば80%以上)なら、観測期間やパラメータの設定を見直すべきサインかもしれない。適度に購買のバリエーションがあるデータになっているか、この段階で確認しておこう。


Part 2:推定・P(alive)・holdout検証・CLV(70点)

問4(20点):BG/NBD対数尤度の実装とMLE

BG/NBDの対数尤度

\[ L(r,\alpha,a,b \mid x, t_x, T) = \frac{B(a, b+x)}{B(a,b)} \cdot \frac{\Gamma(r+x)\,\alpha^r}{\Gamma(r)} \cdot \frac{1}{(\alpha+T)^{r+x}} \;+\; \mathbb{1}[x>0] \cdot \frac{B(a+1, b+x-1)}{B(a,b)} \cdot \frac{\Gamma(r+x)\,\alpha^r}{\Gamma(r)} \cdot \frac{1}{(\alpha+t_x)^{r+x}} \]

を自作し、optim()でパラメータを推定せよ。真値との比較表、およびHessianからのSE・95%信頼区間の表を作ること。

logsumexp2 <- function(log_a, log_b) {
  m <- pmax(log_a, log_b)
  m + log(exp(log_a - m) + exp(log_b - m))
}

bgnbd_loglik <- function(r, alpha, a, b, x, tx, T) {
  ln_Bab <- lbeta(a, b)

  ln_A0 <- ______                       # 【穴埋め】第1項(常に生きている経路)の対数

  ln_A1 <- rep(-Inf, length(x))
  idx <- x > 0
  ln_A1[idx] <- ______                  # 【穴埋め】x>0の行だけ第2項を計算

  logsumexp2(ln_A0, ln_A1)
}

neg_loglik_bgnbd <- function(theta_log, x, tx, T) {
  params <- exp(theta_log)
  r <- params[1]; alpha <- params[2]; a <- params[3]; b <- params[4]
  -sum(bgnbd_loglik(r, alpha, a, b, x, tx, T))
}

theta_init <- log(c(r = 1, alpha = 1, a = 1, b = 1))

opt_result <- optim(
  par = theta_init, fn = neg_loglik_bgnbd,
  x = x_cal, tx = tx_cal, T = rep(T_cal, N),
  method = "L-BFGS-B", hessian = TRUE
)

theta_hat <- exp(opt_result$par)
names(theta_hat) <- c("r", "alpha", "a", "b")

# ---- ここにHessianからのSE・信頼区間の計算と、真値との比較表を書く ----
ヒントヒント:x=0の場合分けとlogsumexpの安定化

\(x=0\)のときに第2項を計算してはいけない理由を、講義ノートに戻って確認しよう。また、ln_A0ln_A1を単純にexp()してから足してlog()を取ると、パラメータの初期値次第で数値がオーバーフロー・アンダーフローしうる。logsumexp2()を必ず経由すること。ifelse(x > 0, ..., -Inf)は非採用行の式まで評価して警告を出しうるので、上の骨格のようにidx <- x > 0で対象行だけ計算する。

Hessianの逆行列から得るSEは、正しく特定された独立同分布の尤度を前提にしたモデルベースSEであることも1文で明記せよ。

問5(15点):P(alive)の計算と解釈

全顧客にP(alive)を付与し、その分布をヒストグラムで示せ。さらに、\(t_x\)は同じだが\(x\)が大きく異なる2人の顧客」を探し出し(または講義ノートのように架空の例を作り)、P(alive)がどう変わるかを示して、その理由を3〜4文で解釈せよ

palive_bgnbd <- function(r, alpha, a, b, x, tx, T) {
  ratio <- (alpha + T) / (alpha + tx)
  term <- ifelse(x > 0, (a / (b + x - 1)) * ratio^(r + x), 0)
  1 / (1 + term)
}

# ---- ここにP(alive)の付与・ヒストグラム・recency同一/frequency違いの例を書く ----
ヒントヒント:「recency同じ、frequency違い」のペアの探し方

実データに近い形で探すなら、tx_calが近い値(例えば±1週以内)の顧客を集め、その中でx_calが最小の人と最大の人を比較するとよい。あるいは講義ノートのように、\(t_x\)を固定した架空の\(x\)の値(例:1, 5, 10, 20)でP(alive)を計算し比較する方法でもよい。

問6(15点):holdout 26週の検証

推定したパラメータを使い、次の2つの検証を行え。

  1. holdout期間(26週)の週次累積購買数について、実績と予測を重ねた折れ線図(トラッキングプロット)。
  2. 個人レベルの予測購買数デシル別の実績平均(校正確認の棒グラフ)。

将来購買数の予測には、講義ノートと同じ方針を使うこと。具体的には、calibration終了時点で生存している経路について

\[ \lambda\mid x,T,\mathrm{alive}\sim\mathrm{Gamma}(r+x,\ \mathrm{rate}=\alpha+T),\qquad p\mid x,\mathrm{alive}\sim\mathrm{Beta}(a,b+x) \]

から\(\lambda,p\)を引き、P(alive)で開始時点の生死を引く。生存パスでは、待ち時間を\(\mathrm{Exp}(\lambda)\)から引き、予測期間内の各購買直後に確率\(p\)で離脱判定を行うこと。開始時点で生存した顧客を26週間ずっと生存扱いしてはいけない。

simulate_future_path <- function(lambda, p_drop, horizon_weeks) {
  # 【穴埋め】待ち時間→購買を記録→確率p_dropで離脱、を期間終了まで繰り返す
}

simulate_holdout_weekly <- function(r_hat, alpha_hat, a_hat, b_hat,
                                    x, T_cal, p_alive, n_weeks, S = 20) {
  # 【穴埋め】事後lambda・事後p・開始時点の生死を引き、
  # event timeを(w-1,w]へ集計してS本の平均を返す
}

# ---- ここに(i)(ii)の全顧客への適用と図を書く ----
ヒントヒント:なぜシミュレーションで評価するのか

将来購買数の条件付き期待値には、教科書的にはガウス超幾何関数を含む閉形式が存在するが、この課題では実装しない。イベントツリーは「T時点で死亡なら0、生存なら次の待ち時間、期間内なら購買、購買直後に離脱なら終了、生存なら次の待ち時間へ」である。予測でもDGPと同じ順序を保つこと。

問7(10点):上位10%顧客のCLV試算

1回の購買あたりの粗利をmargin = 1200円、実効年率を10%として、全顧客のCLV(2年間のホライズン)を計算し、CLV上位10%の顧客の一覧(顧客ID、x、t_x、P(alive)、CLV)を表として示せ。ここでのCLVは無限期間の生涯価値ではなく、104週で打ち切った予測価値である。\(\lambda\)、待ち時間、ホライズン、割引率の単位をすべて週に揃えること。

margin <- 1200
annual_discount <- 0.10
weekly_discount <- (1 + annual_discount)^(1 / 52) - 1
horizon_weeks <- 104

compute_clv <- function(r_hat, alpha_hat, a_hat, b_hat, x, T_cal, p_alive,
                        horizon_weeks, weekly_d, margin, S = 200) {
  ______   # 【穴埋め】問6と同じ将来パスを使い、各購買を週単位で割り引く
}

# ---- 全顧客のCLVを計算し、上位10%を表にする ----

問8(10点):「このリストで何をしてはいけないか」

問7で作った「CLV上位10%リスト」を経営陣に提出したところ、「この10%に来月から広告を集中的に出そう」という提案が出た。この提案の何が問題かを、3行で述べよ。第10回講義ノートの該当箇所を踏まえて答えること。

# 回答はコードチャンクではなく、テキストで記述してよい
ノート経営・政策への含意(この課題の締め)

問8への回答が、そのまま「経営・政策への含意を3行で書け」の役割を果たす。CLVという「予測」と、施策の「因果効果」を混同しないという視点は、次回(第11回)のuplift modeling・CATEの回で本格的に扱う中心テーマである。


提出方法

  • この.qmdの穴埋め(______#| eval: false)をすべて埋め、#| eval: falseを外して最後まで render できる状態にする。
  • 各問の出力(表・図)とコメントを含めること。
  • render した HTML を提出。
重要配点(合計100点)
  • 問1(10):購買イベントのシミュレーション実装
  • 問2(10):calibration期間のRFM要約統計量の作成
  • 問3(10):可視化と記述統計
  • 問4(20):BG/NBD対数尤度の実装、optim()でのMLE、Hessian SE、真値回収
  • 問5(15):P(alive)の計算・分布・recency-frequency交互作用の解釈
  • 問6(15):事後\(\lambda,p\)と予測中の離脱を含むholdout週次トラッキング、予測デシル校正
  • 問7(10):時間単位と将来離脱を整合させたCLV試算、上位10%リストの作成
  • 問8(10):CLVに基づく施策提案の問題点を3行で指摘